マイクロ法人設立ブームの功罪(読了時間7分)

はじめに

近年、個人事業主やフリーランスの間で「マイクロ法人」を設立する動きが加速しています。

SNSやYouTubeなどでも「節税に強い!」「社会保険料を下げられる!」といった声が目立ち、一種のブームとなっています。

しかし、マイクロ法人の設立には明確なメリットがある一方で、リスクや注意点も少なくありません。

本コラムでは、マイクロ法人の節税効果や社会保険対策の実情を整理しつつ、その功罪について解説します。

マイクロ法人とは

「マイクロ法人」とは、実質的に従業員が自分一人(または家族のみ)で構成される超小規模な株式会社のことを指します。

主に個人事業主が節税や社会保険料の抑制を目的に設立するケースが多く、以下のような特徴があります。

  • 売上規模は小さい(年間数百万円〜数千万円程度)
  • 役員報酬を最小限にして社会保険料を抑える
  • 所得分散を行い、個人・法人間で税金の最適化を図る
  • 経費の計上範囲を拡げ、実効税率を下げる

功:マイクロ法人のメリット

1. 社会保険料の節約

マイクロ法人の最大の魅力は、役員報酬をコントロールすることで社会保険料(健康保険・厚生年金)を節約できる点です。たとえば、月額報酬を低めに設定すれば、個人事業主時代に比べて数十万円単位で年間負担が軽くなることもあります。

2. 法人税率の低さ

中小企業には「15%の軽減税率(所得800万円以下)」が適用され、一定の利益を法人に残すことで、個人よりも低い税率での納税が可能です。

3. 経費の幅が広がる

法人にすることで、家賃や通信費、車両費などを法人経費として計上しやすくなり、節税余地が拡大します。

4. 所得分散が可能

家族を役員や社員にすることで、所得を分散させ、全体の所得税負担を軽減することも可能です。

罪:マイクロ法人の落とし穴・リスク

1. 法人と個人で同一事業を行うリスク

個人事業主とマイクロ法人が「同一顧客」「同一業務」を行っていると、税務署から『実質的に一体の事業』とみなされ、売上や費用の付け替えが否認される可能性があります。特に、消費税回避目的での形式的な名義変更は否認リスクが高まります。

2. 赤字でも最低7万円の法人住民税

法人は利益が出ていなくても、均等割として最低7万円程度の法人住民税がかかります。売上が少ない場合、かえって持ち出しとなるケースもあるため注意が必要です。

3. 社会保険強制加入のリスク

法人を設立した場合、原則として社会保険(健康保険・厚生年金)への加入義務が発生します。節約のつもりで法人化したのに、報酬設定や実態によっては予想以上の社会保険料が発生してしまうこともあります。

4. 実務・事務負担の増加

法人を維持するには、法人税・消費税の申告、定款管理、登記変更手続きなどが発生します。記帳や会計処理も複雑化するため、顧問税理士への依頼や会計ソフト利用が実質的に必要となります。

マイクロ法人は、適切に活用すれば社会保険料や所得税を抑えられる有効な節税ツールです。しかし、設立の目的や運用方法を誤ると、税務上の否認やコスト過多によって逆効果になりかねません。

事前に税理士などの専門家に相談し、「売上規模」「利益構造」「顧客属性」「経費実態」などを総合的に判断したうえで、法人化を検討することが肝要です。

マイクロ法人設立はあくまで“手段”であり、“目的”ではありません。制度の利点とリスクを正しく理解した上で、賢く活用していきましょう。